あらすじ
王太子妃候補の公爵令嬢リーゼロッテには、契約書に残された署名時の意思と改竄の痕跡を見抜く「誓印視」がある。王太子妃教育の最中、用途の異なる複数の契約に同じ「摂政特別承認番号」が使われていることに気づき、正規の照会を申請した彼女は、その直後の夜会で王太子ユリウスから突然婚約破棄を宣告される。しかも提示された婚約解消証書には、署名後に文面を差し替えたことを示す赤い亀裂が走っていた。原本照合を求めたリーゼロッテは、逆に反逆容疑を着せられ拘束される。
そこへ現れたのは、声を発することのできない北境公爵レオンハルト。彼は筆談でリーゼロッテへ婚姻を申し出る。王妃の支配から逃れるため、彼女は契約内容を自ら確認したうえで北境公爵夫人となるが、レオンハルトの沈黙そのものもまた、十年前に結ばれた異常な契約によるものだった。
食糧不足、不正鉱山、強制婚姻、奪われる財産。北境と王都で次々に見つかる歪んだ契約を正すうち、リーゼロッテは、亡き母エレオノーラが追っていた「王国統治誓約」の改竄と、王妃ヴァレリアが築いた巨大な偽りへ近づいていく。
しかし誓印視は、真実を見つける手掛かりにはなっても、裁判の証拠にはならない。原本、登録記録、契約石、証言――誰にでも確かめられる証拠を積み重ねながら、リーゼロッテはレオンハルトの命と王国の未来、そして「命令ではない結婚」を自ら選び取ろうとする。