あらすじ
「うちの反物の目が粗い。糸を抜いたのはこの者だ」——夏の初め、反物の座で、買い手が居並ぶ前で主人がわたしを名指しした。
否定はしない。代わりに、三つ並べた。抜いたのでございますか。わたしがやるなら、そんな下手はいたしません。筬を一羽落とします。耳の返しを二本にします。湿りの日に張りを半分緩めます。どれも数えれば糸は合っております。目の詰みだけが落ちます。
座が、しんと静まった。最後に一人が言う。「……そりゃ、あんたにしかできん」。
反物の値は糸の本数ではなく、指で撫でたときの目の詰みで決まる。十一年、それを守ってきた。手間賃は入って半年の甥と同額に割り直され、柱には羽数と本数が貼り出された。承知しました。糸が通っていれば売れます。
道具を拭いて棚へ戻し、いつもの位置へ揃えて店を出た。壊しも持ち出しもしない。やめるのは、手を入れることだけ。
秋。糸数は合っているのに、撫でると指が滑る反物が出た。呉服屋が端を撫でて首を振り、巻きがそのまま返る。誰も怒鳴らない。ただ次の月から、注文が来ない。自分の機を持ったわたしの前へ「戻ってくれ」と立った主人へ、あの一句をそのまま返す話。