あらすじ
温かいスープを出す。手を洗わせる。食べられない日は、責めない。
それが、元看護師のサヨが十七年間、小さな『灯火食堂』で続けてきたことだった。
前世では、医師の夫に仕事も誇りも否定され、自分の価値を見失った。だから第二の人生では、誰かの顔色や食欲の小さな変化を見逃さず、目の前の人に必要な食事を作って生きてきた。
そんなある日、店の前に王家の馬車が止まる。
かつて灯火食堂へ通っていた腹ぺこの子どもたちは、騎士団長、宰相補佐、聖女、魔術師団長、大商会長へと成長していた。
彼らがサヨに頼んだのは、毒殺未遂をきっかけに食事を恐れ、衰弱している王太子を助けること。
治療によって傷は癒えても、少年の心から恐怖は消えていない。サヨは奇跡を起こすのではなく、食べられるものを探し、眠れない夜に寄り添い、温かなスープを一口ずつ差し出していく。
けれど王宮では、そんな小さなケアが軽んじられ、王太子の食卓には“毒ではない悪意”が隠されていた。
かつてサヨに明日をもらった子どもたちは、今度こそ彼女を一人で戦わせまいと立ち上がる。そして十七年前から彼女を想い続けてきた王弟も、急かすことなく、その荒れた手を取り――。
これは、何の変哲もない食堂の女将が温かな食事で人々の心に灯火をともし、彼女自身もまた、救ってきた人々から人生ごと大切にされる物語。
※2028.8.10にアカウント削除により消えた作品を、若干の改稿をして再掲載しています。