あらすじ
「あの女を蜂場から外れさせろ。蜂は、買えば手に入ります」——秋、寝かせ棚で蝋を数えていた背中側で、外から来た差配人が家令へそう話していました。身に覚えのない疑いでした。
伯爵家の蜂場を見るのは十二年、クセニヤの仕事でした。巣枠を回し、採った蜜蝋を二年寝かせてから教会納めの蝋燭の元にします。菩提樹の巡りの年は蝋が白く硬い。雨の多い年は水が残るので寝かせを三月延ばす。蕎麦の花に当たった枠は色が濃いので納めから外す。柱に貼れるのは刻限と枠数だけで、その日の読みは全部この頭の中にあります。
札は要らないと言われました。広間の柱には採蜜の刻限が貼り出されます。承知しました。蜂は、買えば手に入ります。では、札を全部お出しします。
十二年ぶんの札を机へ積み、燻し器を拭いて棚へ戻し、いつもの位置へ揃えて蜂場を出ます。
半年、何も起きません。倉には二年ぶんの寝かせ蝋があります。けれど冬、それが尽きた朝から、納めの蝋燭が芯のまわりから黒く煤を吹くようになりました。修道院の会計係が一本灯して首を振り、箱がそのまま返ります。誰も怒鳴りません。次の月から注文が来ないだけです。
自分の蜂場の前へ立った差配人へ、あの一句をそのままお返しするお話。