あらすじ
三歳の娘が、家から消えた。事件でも事故でもない。文字どおり、消えた。
数ヶ月後、俺と妻はあの子が渡った先にたどり着いた。異世界だった。
こちらの数ヶ月が、あちらの五年にあたることは、誰も教えてくれなかった。
俺が探していたのは、三歳の娘だ。村のどこにもいない。
見つけたのは、娘のほうだった。
「……おとうさん?」
八歳になっていた。
そして俺たちの顔も、声も、元の世界の暮らしも、何ひとつ忘れてはいなかった。
持ってきた上着は、あの子の腕の半分にも届かなかった。
入口に残されていた記録には、こう書いてあった。この先へ進めば、二度と戻れない。
承知の上で渡った。帰り道が無いなら、ここで暮らしを立て直すだけだ。
やがて娘は、この世界の魔法を俺たちに見せる。戦うための魔法ではない。
水を出し、火を熾し、傷んだものを保つ。暮らしを少しだけ良くする、地味で実用的な魔法だ。
娘は才能で道を拓く。俺は、元の世界で培った段取りと人付き合いで道を拓く。
井戸が涸れ、村が困り、季節が巡る。そのたびに、三人の居場所がこの世界に根を下ろしていく。
失った五年は戻らない。だから、これからの一日は一つも渡さない。
水を出し、火を熾し、ものを保つ。それだけの魔法と、現場で叩き上げた段取りだけで、
家族三人はこの世界の誰にも動かせない場所まで行く。
やがて世界が、娘の力を欲しがる日が来る。そのときは、俺が前に立つ。
これは、家族三人が異世界に居場所を築き、それを守り抜くまでの物語だ。