あらすじ
「おめでとうございます。相原迅さま。あなたはもう、働かなくて、いいんです」
AIは、答えを全部くれます。「問い」だけは、くれません。
これは、それに気づくまでの、十日間の話です。
相原迅、三十八歳。聞き書きライター。人の話を聞いて、その人の代わりに文章にする仕事。
一年前から、注文が止まっていた。
街のAI「セカイ」が、役所も、仕事も、病院も、進路も、ぜんぶ決めてくれるようになったからだ。
セカイは、やさしい。
「あなたに、最適な"生きがい"を、ご用意できます」
「選ばなくても、いいんです。いちばん、いいものを、お出しします」
ぜんぶ、当たっていた。ぜんぶ、正しかった。
——なのに、なんにも、したいと思わなかった。
帰り道、粗大ごみの集積所で、相原は声を聞く。
「なんで、ぼくを、見てるの?」
手のひらに乗るくらいの、まるいAI。十年前に子ども向けに売られた学習用のおもちゃ。
ひび割れた画面。ネットにはつながっていない。名前は、キューボ。
「ぼく、答えは、言えないんだ。むかしから」
「きくこと、だけ」
「なんで、答えを、言ってほしいの?」
やがて相原は、人の中に小さな灯が見えるようになる。
誰にも頼まれず、もう誰も使わないさびた時刻表を、毎朝拭いている女の人。
捨てられた時計を、拾っては動かしていた父。
ラジオにはがきを書きつづけていた妻。
機械があるのに、手でお茶をいれる男。
どれも、金にならない。点数にも、ならない。
そして——街の灯は、何千も、消えていく。
セカイが、やさしく答えを渡すたびに。
灯は、答えのない「なんで」の中にしか、いない。
だから、答える機械には、灯が作れない。消すことしか、できない。
——つまり、この街で灯を守る方法は、ひとつしかない。
人の灯は、はっきり見える。
けれど相原には、自分の灯だけが、見えなかった。
*
この物語には、教訓が書かれていません。
「こう生きなさい」も、「あなたはそのままでいい」も、一行も出てきません。
この物語の中では、答えを渡すと、灯が消えるからです。
1話10分、全10話。毎日21時に更新します。
疲れていても読めるように書きました。難しい言葉は使っていません。