あらすじ
「姐さんの場所を、ちょうだい」——秋の暮れ、乾かし場で板を数えていた背中側で、叔父の娘がそう言いました。叔父夫婦も若い衆も「譲ってやれ」と続けます。
桶屋の乾かし場を回すのは十二年、お楽の仕事でした。挽いた側板は三年寝かせ、木口の色と重さで頃合いを判じてから締めます。北斜面の材は目が詰むので反りが遅い。日照りの年の材は割れるので薄く挽く。雨続きに挽いた材は水が残るので一年余分に。柱に貼れるのは寸法と年数だけで、その日の読みは全部この頭の中にあります。
書き付けは要らないと言われました。柱には木取りの寸法が貼り出されます。承知しました。
では、望まれたものは全部差し上げます。店先も、名も、鉋も、乾かし場の鍵も。渡せと言われなかったのは、木口を見る目だけでした。
半年、何も起きません。乾かし場には三年ぶんの板があります。桶は今までどおり出ます。けれど冬、三年物が尽きた朝から、同じ寸法で締めた桶が継ぎ目からじわりと滲むようになりました。酒屋が水を張って首を振り、荷がそのまま返ります。誰も怒鳴りません。次の月から注文が来ないだけです。
自分の乾かし場の前へ立った妹分へ、あの一句をそのままお返しするお話。