あらすじ
「息は、誰でも吹けます」——若旦那が仲買人にそう話すのを、わたしは水差しを灯りへ掲げたまま聞いていました。泡は三つ。聞き違いは、一つもありません。
炉の温度と、一本に何息、日に何本。柱に貼れるのはそれだけです。けれど種は一釜ずつ違います。灰の多い年の種は粘るので息を短く、砂の細かい釜は肉が薄くなるので竿を余分に回し、雨続きに寝かせた種は泡が残るので一年余分に。同じ温度で吹いても、二度と同じ器にはなりません。
覚え書きは要らないと言われました。ええ、吹けますとも。では明日から、誰にも教えません。
竿は拭いて台へ置きます。炉も壊しません。やめるのは、教えることだけ。
半年、何も起きませんでした。二年寝かせた種がある間は、器は今までどおり出ます。けれど夏、寝かせ種が尽きた朝から、炉の口を出た器が縁からぱんと割れるようになりました。硝子問屋の番頭さんが一つ手に取って首を振り、木箱がそのまま返ってきます。誰も怒鳴りません。次の月から、注文が来ないだけです。
自分の炉の前に立った若旦那へ、あの一句をそのままお返しするお話。