あらすじ
魔力測定値は、十一年連続でゼロ。
リリアーナの身体には、魔力が一滴も溜まらない。
この国では、それは最底辺の欠陥だった。
婚約破棄を告げられた夜、彼女は前世を思い出す。
働きすぎて倒れた、品質管理課の記憶だった。
慰謝料も名誉も要らない、と彼女は言う。
向かった先は、祖父が遺した辺境の杖工房。
そこで彼女は、自分の体質の意味を知る。
魔力が溜まらない身体は、魔力を素通りさせる。
だから杖に触れるだけで、内部の詰まりが読める。
術者は誰も、自分の杖の中を見られない。
彼女だけが、それを手のひらで測れた。
工房は一日五件で閉まる。
日没を過ぎたら、金貨百枚の依頼でも受けない。
無理をして作った物は必ず歪む、というのが彼女の理屈だった。
やがて王都で、原因不明の魔法事故が続きはじめる。
理由を言い当てられる人間は、この国にひとりしかいない。
そして彼女は、その人間だった。
工房に通う無愛想な辺境伯が、ひとつだけ譲らないものがある。
腰に提げた、ひどく歪んだ古い杖。
握りが小さすぎて、彼の手にはまるで合っていない。
なぜ彼は、それを手放さないのか。
その削り跡に、彼女はなぜ見覚えがあるのか。