あらすじ
伯爵令嬢リシェル・アーデンは、人の影に生じた傷を銀糸で修復する「影縫い」の力を持つ。だが彼女には、どれほど相手を救うためであっても、本人の同意なくその力を使わないという絶対の信念があった。
冬至の夜会で、婚約者セドリックから突然婚約破棄を告げられたリシェル。さらに、侍女ミナを含む三人から「影縫いで人々を操った」と告発されてしまう。しかしリシェルは、証言者たちの影に、自分の術ではありえない同じ銀色の傷を発見する。
拘束されかけた彼女を救ったのは、巨大な黒狼の影を持つ北方公爵アラルド・ヴェルンだった。呪われた公爵と恐れられる彼の黒狼もまた、何者かによって鎖を不正に操作されていた。
リシェルとアラルドは、それぞれに仕掛けられた術の真相を追い始める。やがて浮かび上がったのは、強制縫合用の銀針で貴族たちの意思を操り、王国の政治さえ支配しようとするセドリックの陰謀だった。
人を救うためにも、その心を縛ってはならない――。
リシェルはアラルドを操るのではなく、彼自身の意思を信じることを選ぶ。そしてアラルドもまた、自分を恐れず一人の人間として向き合う彼女に惹かれていく。
婚約破棄から始まった二人が、誰かに決められた関係ではなく、自らの意思で互いを選び直すまでを描く、影と銀糸の異世界恋愛。