あらすじ
魔法とは、理論と計算、そして魔力で世界をねじ伏せるもの。
それが、この王国の常識だった。
王立図書館で働くルチアには、魔法の才能がない。
魔力量は少なく、複雑な術式も扱えない。
ただ一つ、彼女には他人にはない奇妙な力があった。
古い魔術に宿る『魔波』が、まるで歌や感情のように聞こえるのだ。
『怒っている』
『寂しがっている』
『これは命令じゃない。子守唄だ』
しかし、そんな曖昧な感覚は魔術とは認められない。
天才魔導士だった亡き双子の姉フィオナと比べられ、笑われ続けたルチア自身も、いつしか自分の『耳』を役立たずだと思うようになっていた。
そんなある日。
王立図書館の最高位結界を破り、一人の男が現れる。
その名はカイル。
かつて王宮最年少の大魔導士と呼ばれ、今では王国中から追われる『大罪人』。
カイルはルチアが古文書の片隅に書いた、
『……子守唄?』
という小さな一文に目を留める。
そして、誰も相手にしなかったルチアの解釈を使って魔法を発動させてみせた。
結果は、王国の正統魔術を遥かに上回るものだった。
「なんで……私の考えが分かったんですか?」
ずっと否定され続けた少女に、大罪人は当たり前のように答える。
「お前の考えが、正しいからだ」
さらにカイルは、三年前に行方不明になったルチアの母を知っているという。
亡き姉の謎。
消えた母。
王国が正しいと信じてきた魔法。
そして、自分にだけ聞こえる『世界の歌』。
安全な図書館に残るか。
大罪人と共に、王国の外へ踏み出すか。
ルチアは初めて、自分自身の意志で一歩を踏み出す。
「行きます。……でも、自分で歩けます」
これは、役立たずと呼ばれた少女が、
世界が本当に奏でている『魔法』を知る物語。