あらすじ
愛した人の言葉を遺すことは、その人を自分好みに作り替えることだった――
夫との離縁、我が子との死別。
絶望の果てに仏門へ入った貞心尼(誠)は、越後の老僧・良寛と出会う。
言葉を交わし、歌を贈り合い、魂の深所で結ばれた二人。
だが、その穏やかな時間は良寛の死によって終わりを迎える。
「和尚様の言葉を、私だけのものにはさせない」
悲しみの底で貞心尼が始めたのは、二人で交わした歌をまとめる歌集『蓮の露』の編纂だった。
しかし、それは美しくも切ない「裁断」の始まりだった。
和尚から届いた文から自分の名である「宛名」をハサミで切り落とし、生身の和尚が漏らした老いの嘆きや泥臭い弱音を、火鉢の炭で灰にしていく。
世間に差し出すのは、己の手で選び抜き、磨き上げた「美しく尊い良寛像」――。
愛する者の言葉を残したいという純粋な願いは、いつしか「自分だけの和尚」を作り上げる静かな執着へと変貌していく。
やがて時が流れ、良寛の遺稿集を編もうとする僧・蔵雲が現れたとき、貞心尼は自らが重ねてきた「編集という業」と向き合うことになる。
伝説の老僧・良寛と、その最期を看取った女弟子・貞心尼。
史実に眠る「歌集編纂」の裏側に潜む、愛と狂気の人間ドラマ。