あらすじ
団地の夕暮れ時に窓々に灯りがともる光景。それは、物語の語り手にとって、かつて過ごした幼少期の温かな記憶の象徴である。
当時の団地では、日が暮れると母が台所で夕飯の支度をし、父が帰宅し、向かいの窓にも次々と灯りがともった。何気ない日常の反復であり、当時はその幸福さに気づくこともなかった。しかし大人になった今、古びた団地のそばを通ると、当時の家から漏れていたささやかな灯りや、母の足音、家族が揃う安らぎの記憶が鮮明によみがえる。
友人たちと別れ、階段を上って我が家の灯りを目指すあの時刻。特別ではなかったはずの日常が、歳月を経てかけがえのない「光」として胸に残り続けている。過ぎ去った時間と、戻ることのない家族や友との記憶を、夕暮れの団地の風景に重ねながら、静かに振り返るノスタルジックな物語である。