あらすじ
天正十年六月。
油屋・山崎屋で奉公する十八歳の弥吉は、ある日、現代日本で生きた前世の記憶を取り戻す。
歴史好きだった彼が気づいたのは、明日が「本能寺の変」の日だということ。
しかも弥吉には、自分の知る場所へ意識を置き、遠くの今を見聞きできる奇妙な力があった。
怖い。絶対に近づきたくない。
それでも――本物の歴史を、この目で見たい。
安全な山崎屋から本能寺を観測した弥吉が目撃したのは、炎上する寺でも、明智の軍勢でもなかった。
煙も灰も残さず、血から色を奪い、人の輪郭そのものを消していく――白い火。
後世の記録には残らない異変を境に、弥吉の日常は少しずつ“歴史の裏側”へ触れ始める。
病弱だが気丈な幼なじみ・千代。
人と異形の境を見分ける謎の男・御影甚内。
そして、戦と噂と暮らしの陰で起きる、記録されなかった異常。
英雄になるつもりなんてない。
天下を取る気もない。
ただ、怖いまま見る。
見たものを、見なかったことにしない。
これは、歴史の表舞台には立たない臆病者が、戦国の“記録されなかった側”を見届けていく物語。