あらすじ
関谷市では、夜になると「嘘」が落ちている。 誰にも信じてもらえず、発話者本人にすぐ放棄された嘘は、青白い貝殻のような形になって街の片隅で光る。人には見えない。触れられない。ただ、白坂灯(しらさか・あかり)——県立関谷北高校二年、友人なし、特技は呼吸するように嘘の匂いを嗅ぎ分けること——だけが、それを拾い、回収できる。
回収の対価として、灯は一瞬だけ「その嘘が真実になっていた世界」を幻視する。 「お母さん、元気だよ」と言った少年の、母が生きている世界。 「もう好きじゃない」と言った少女の、ふたりが結ばれた世界。 灯は見てはいけない可能性ばかりを見続けてきた。
春のある夜、灯は河川敷で一つの嘘を拾う。 それは、灯自身の声で紡がれた嘘だった。 ——『わたしは、白坂灯です』
記憶にない。だが声は紛れもなく自分のもので、その嘘が放棄されたのは三年前、灯の記憶が始まるちょうどその日だった。 自分が誰であるかを証明するために、自分の嘘を拾い続けなければならない。 町のすべての嘘が、やがて一人の少女の消えた三年間を指し示していく——