あらすじ
かつて、王国最強の剣士と呼ばれた男――レオンハルト・グレイヴ。
五十二歳になった今、彼は辺境の町で小さな酒場を営んでいる。
剣は捨てた。
英雄の称号も捨てた。
そして、過去を語ることもやめた。
「俺はただの酒場の親父だよ」
それが彼の口癖だった。
ある雨の夜、一人の少女が酒場を訪れる。
王都から逃げてきたという少女、リーゼ。
彼女がレオンハルトに告げた一言が、十年間眠っていた彼の過去を呼び覚ます。
「あなたに会えば、父が全部わかると言われました」
その少女の父親。
それは、十年前の魔王軍との戦いでレオンハルトが「見捨てた」とされる男だった。
やがて辺境の町に魔王軍が迫る。
若き騎士たちは剣を取り、町を守ろうと立ち上がる。
しかし、敵は十年前にレオンハルトが討ち取ったはずの魔将だった。
「久しぶりだな、老いぼれ」
十年ぶりに目の前へ現れた宿敵を見て、レオンハルトは静かに笑う。
「……そうか。まだ終わってなかったのか」
十年間、誰にも見せなかった剣を抜く。
だが彼が剣を抜く理由は、もう世界を救うためではない。
たった一人の少女を、生きて明日へ送り届けるためだった。