あらすじ
『沈黙の琵琶湖 ― 壊れた日常の向こうへ ―』
琵琶湖のほとりで、それぞれ当たり前の日常を送っていた梨花、麻里子、一絵。
家族がいて、仕事があり、明日も今日と同じように続いていく。誰もがそう信じていた。
しかし、夫婦のすれ違い、家庭の中で積み重なる違和感、誰にも言えない苦しみが、少しずつ三人の日常を変えていく。
「家族なんだから我慢しなければならない」
「自分さえ耐えれば、きっと元に戻る」
そう思えば思うほど、心は追い詰められていった。
外から見れば何も問題のない家庭。しかし、その扉の向こうには、誰にも見えない孤独があった。
やがて梨花たちは、それぞれの事情を抱えながら篠田旅館へとつながっていく。
女将の七海、料理長の光博、そして旅館を支える人々との出会い。
誰かに話すこと。
泣くこと。
怒ること。
「苦しい」と認めること。
それまで弱さだと思っていたものが、実は自分と家族を守るための最初の一歩だったことに気づいていく。
だが、過去は簡単には消えない。
壊れてしまった信頼。
家族への未練。
子どもたちへの思い。
許すべきなのか。
離れるべきなのか。
もう一度やり直すことはできるのか。
三人はそれぞれ、自分自身に問い続ける。
そして最後にたどり着いた答えは、「以前と同じ生活に戻ること」ではなかった。
傷ついた事実をなかったことにはせず、それでも自分たちの手で新しい日常を作っていくこと。
静かな琵琶湖の水面は何も語らない。
けれど、その湖のそばで、一度日常を失った人々が、もう一度歩き始める。
これは、壊れてしまった家族だけの物語ではない。
自分を守ること。
誰かを信じること。
そして、安心して「ただいま」と言える場所を、もう一度見つけるまでの物語である。