あらすじ
【紹介文 ~登場人物の紹介とあらすじ~】
【登場人物】
◆菜希(なき)
帝都の西洋料理店で働く、洗濯屋育ちの町娘。
衣服や食器、靴に残った微かな染み、油、匂いから、その原因を読み取ることができる。
頼まれると断れず、いつも自分より他人を優先してしまうが、身分に関係なく誰にでも公平に接する明るい女性。
◆聖眞(せいま)
帝都治安局の若き少佐。
華族の家に生まれ、自分の判断を信じて即座に行動する強い指揮官。
証拠を慎重に見る菜希とは衝突を重ねながらも、次第に彼女の能力だけでなく、菜希自身へ惹かれていく。
◆理奈(りな)
聖眞の幼なじみで、帝都新聞社の写真記者。
写真や鏡の端に残された小さな違和感から、事件を解くための「勝ち筋」を組み立てる。
◆優弥(ゆうや)
聖眞の部下。
努力と鍛錬を欠かさない青年。
地下拳闘場への潜入では、磨き上げたインファイトを武器に事件の裏側へ迫る。
◆亜美(あみ)
菜希の同僚である給仕。
人の恋心にも悪意にも少々鈍く、言葉遣いも遠慮がない。
しかし、何気なく覚えていた日常の記憶が事件を動かすことになる。
◆美月(みづき)
帝都化学研究所の研究員。
冷静で計画的な女性だが、十二年前に父を亡くした工場事故には、誰にも見せない激しい怒りを抱えている。
【あらすじ】
華族たちが集う帝都の西洋料理店。
宴席の最中、一人の男が激昂した瞬間――轟音とともに、彼を中心とした突風が吹き荒れた。
後に「怒嵐」と呼ばれる怪現象。
その夜、割れたグラタン皿に残された奇妙な油膜を見つけたのは、洗濯屋育ちの町娘・菜希だった。
「この皿、料理だけが付いていたんじゃありません」
衣服や靴、食器に残る染みを読み取る菜希の観察力に目をつけたのは、帝都治安局の少佐・聖眞。
即断即決で突き進む聖眞と、わずかな痕跡も見逃さず慎重に確かめる菜希。
正反対の二人は衝突しながら、怒嵐が起きた三つの現場に残された共通点を追っていく。
グラタン皿。
シューズクリーナー。
謎の鉱物粉。
汗に含まれるアミノ酸。
そして、十二年前に起きた帝都化学工場の事故。
やがて二人は知る。
怒嵐は偶然ではない。
誰かが標的の靴へ仕掛けを施し、過去の罪を突きつけ、意図的に「怒らせて」いるのだ。
事件の奥に眠っていたのは、十二年前に隠された真実と、一人の女性が抱え続けた怒り。
そして菜希自身にもまた、ずっと笑顔の下へ押し込めてきた感情があった。
「私なら何でもしてくれるって思わないで!」
初めて怒りを口にした菜希へ、聖眞は告げる。
「俺が欲しいのは、何でもしてくれる菜希じゃない」
他人の期待に応えることでしか、自分の価値を信じられなかった町娘。
自分の判断こそ正しいと信じ、誰より早く前へ出てきた少佐。
帝都を鳴り響く風の中で、二人は互いの弱さと怒りを知り、やがて「必要だから」ではなく、自分の意思で相手を選んでいく。
染みから真実を読み解く町娘と、彼女の言葉を聞くことを覚えていく少佐。
十二年前の事故をめぐる謎と身分差の恋が交差する、帝都恋愛ミステリー。