あらすじ
~登場人物の紹介とあらすじ~
i)登場人物の紹介
カーリーン
没落した家の出身で、古い家財や文書を整理・査定する遺産整理人。仕事には高い基準を求める一方、目の前の証拠だけで人や物を判断してしまうところがある。十六年ぶりに訪れた伯爵家の旧館で、自分が忘れていた過去と向き合うことになる。
アーヴィン
王立建築局の調査官。複雑な構造や情報を図にして把握することを得意とする。自由気ままだが、他人の選択を勝手に決めない。カーリーンと共同で旧館の謎を調べるうち、仕事仲間以上の存在になっていく。
キャスリン
伯爵家の当主代理。明るく賑やかに振る舞う青年だが、十歳以前の記憶が薄く、恐怖や深い悲しみをほとんど感じられない秘密を抱えている。
ターイーサ
伯爵家の家政責任者。率直で立派な女性。感謝を口にはしないが、必要な助けを黙って差し出す。十六年前に起きた出来事を知る数少ない人物。
ジェスエリー
伯爵家の財産整理を担当する法務官。交渉に長け、人のために動ける現実派。旧館に残された記録をたどり、過去の金の流れを追う。
ジョアンナ
王立美術院の陶磁器鑑定官。伝統を重んじながらも、努力と結果を冷静に結びつける人物。欠けた十二客の皿に秘められた役割を解き明かしていく。
ii)あらすじ
十六年ぶりに伯爵家の旧館を訪れた遺産整理人カーリーン。
閉鎖を控えた屋敷の家財と文書を整理するだけの仕事――そのはずだった。
ところが、決して覆いを外してはならないと告げられた古鏡から、少年の声がする。
「やっと戻ってきた」
鏡の中にいるのは、十歳ほどの少年。
その顔は、伯爵家の当主代理キャスリンと瓜二つだった。
さらに旧子供部屋の押し入れから見つかったのは、カーリーン自身が幼い頃に書いた作文。
そこには、彼女にはまったく記憶のない約束が残されていた。
「忘れても、もう一度あなたを見つける」
なぜ少年は鏡から出られないのか。
なぜ現在のキャスリンには幼少期の記憶と感情が欠けているのか。
そして、なぜカーリーンだけが十六年前の出来事を忘れているのか。
十二枚揃うはずの陶器の皿。
古いコーヒードリッパー。
消された部屋。
父が受け取った謎の金。
そして、「光を和らげる器」という言葉。
王立建築局の調査官アーヴィンとともに証拠を一つずつたどるほど、カーリーンは過去の真相だけでなく、自分が彼へ抱く想いにも気づいていく。
これは、目に見えるものだけを信じてきた女性が、忘れてしまった約束をもう一度拾い上げ、誰かの人生も自分の恋も、自分の意志で選び直す物語。