あらすじ
『男気の虫』
『男気の虫』
「男なら、助けてやれよ」
その一言から、すべてが始まった。
真面目で気の弱い青年・直人は、ただ普通に幸せになりたかった。仕事をして、借金とは無縁の生活を送り、いつか好きな人と家庭を築く――それだけでよかった。
しかし、友人から金を頼まれたことをきっかけに、直人の人生は狂い始める。
「仲間だろ?」
「ここで逃げるのか?」
「男気を見せろ」
断れば、卑怯者になる。
助ければ、金を失う。
そして直人は、博打へと引き込まれていく。
最初は勝った。
だから、もっと勝てると思った。
負ければ「取り返せ」。
借金をすれば「男なら責任を取れ」。
金を手にすれば、人が群がる。
まるで、血を吸う寄生虫のように。
直人の周囲から、本当に彼を心配する友人だけが一人、また一人と離れていく。
残ったのは、金を求める者たちと、膨らみ続ける借金。
やがて直人は、やりたくもなかった犯罪に手を染める。
仲間とともに行った窃盗。
しかし――逮捕されたのは、直人だけだった。
「そんなこと、頼んでいない」
「勝手にやったんだろ?」
仲間たちは、蜘蛛の子を散らすように消えた。
金もない。
仲間もいない。
愛する人もいない。
残ったのは、莫大な借金と、消えることのない罪。
そして刑務所の中で、直人は気づく。
「男気を見せろ」という言葉は、誰かを助けるための言葉ではなかった。
それは、人間に寄生し、金も人生も吸い尽くす――呪いだった。
そして今日も、耳元で声がする。
「男気を見せろ」
その声は、もう誰かの声ではなかった。
直人自身の声だった。