あらすじ
元刑事の私立調査員・柊のもとを、宇津木と名乗る女が訪れる。依頼は、来月の満月の夜に届いた予告状を受け取った男・相良邦彦を見張ってほしいというものだった。過去には、満月の夜、喉と胸に三日月形の傷を残して死亡した二人の男がいる。彼らはいずれも、法律では裁かれなかった罪を抱えていた。
柊と宇津木は相良のマンション廊下で玄関を監視するが、誰も部屋に入らないまま、相良は密室で死亡する。死因は心不全、傷は本人の爪によるものだった。柊は調査を進め、死者三人が匿名の対話会「木曜の会」に通っていたことを知る。さらに十四年前、満月の夜に同様の発作を起こしながら助かった男が、のちに横領を自首していた記録を掴む。匿名の告白ではなく、誰の、いつ、どんな罪かを特定できる形で語れば、この不可解な死を免れられるのではないか――。
会の代表者・宇津木玲こそ、十年前に柊が取調べを担当した冤罪被害者、宇津木悟の娘だった。柊は不十分な証拠のもと、自白を誘導する調書を作り、悟を服役させた。真犯人の自供で冤罪が判明したあとも、柊の名は公表されず、悟は刑務所で死んだ。玲は父を奪った者たちの罪を匿名の会で拾い集め、満月の夜に彼らを孤立させてきたのだ。
次の満月、柊の番が来る。発作に襲われ、自らの爪で喉を裂こうとする柊は、扉の向こうで死を待つ玲に向け、十年前の取調べのすべてを語り始める。事件の日付、署名、調書の文言、そして父・宇津木悟の名まで。一人の人間の罪を、隠れようのない形で告白したとき、月の呪いは消えていく。復讐に失敗した玲に残されたのは三人の死であり、柊に残されたのは、今度こそ責任を引き受けるための電話だった。