あらすじ

昭和十七年、春。戦争の影が色濃く覆う福岡の筑紫の地。十六歳を迎えた正一は、村の伝統行事である「十六詣り」のため、御笠山の山頂を目指して登頂していた。正一を待つのは、秋に迫る徴兵と、大工の父から強いられる「家の型」への服従である。一方、同じ一行の中には、安楽寺天満宮の祈祷所で「不浄の娘」として蔑まれ、大人たちの都合で扱われてきた少女・お雪がいた。 濃霧と激しい雨に見舞われる中、正一とお雪は一本の樫の杖を分かち合い、互いの手から流れる血と汗、黒泥を交えながら荒涼とした山頂・御笠宮へ辿り着く。山頂で告げられた神職の冷酷な言葉は、彼らが「国家の道具」として召し上げられたことを意味していた。しかし、極限の闇と泥の中で二人は急接近し、下界の理不尽な「公」の秩序を拒絶し、互いの命と肉体だけを信じる狂おしい血の密約を交わす。 下山後、出征を祝う安楽寺の境内でお祝いの赤飯が出される。村人たちが「英霊」として持ち上げる中、正一はその「赤」に将来戦地で撒き散らされる自身の血の味を覚える。お雪の足袋の先からこぼれ落ちた一粒の黒泥に、正一は彼女もまた山頂の契りを胸に隠し持っていることを知る。正一は父の手で樫の杖を回収され、職人としての厳格な仕込みに組み込まれ、やがて太平洋戦争の激戦地・南方戦線へと送られていく。 激しい砲火と死の恐怖が渦巻くジャングルで、正一を支え続けたのは、右手の手のひらに刻まれた傷痕と、御笠山でお雪と分かち合った泥の温もりであった。 昭和二十一年、終戦。過酷な戦場を生き延び、復員を果たした正一は、敗戦により虚脱し老いさらばえた父と再会する。旧来の価値観が崩壊した村で、正一は静かに佇むお雪と再会を果たす。お雪は大切に持ち帰り続けた御笠山の黒土を芽吹く草むらへと還し、二人はかつての「破滅の契り」が、理不尽な時代を生き抜くための「生の光」であったことを悟る。 正一は命を繋いでくれた黒い樫の杖を裁断し、二人で寄り添い立つ素朴な木像を削り出す。傷痕を抱えた二人は、過酷な時代を越えて固く手を取り合い、陽光降り注ぐ新しい時代の明日へと力強く歩み出していくのだった。

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エブリスタ
エブリスタ2026/08/28
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