あらすじ
うつ病と診断された日は、ちょうど私の二十四歳の誕生日だった。
小さなケーキを持って病院へ行った。久世直人に、たった十分だけ一緒にいてほしかった。
「直人、少しだけ付き合ってくれない?」
彼は顔も上げなかった。
「澪、今は君の気持ちに付き合ってる暇はない」
「でも、今日……私の誕生日なの」
「一分も無理だ。悪いけど出て。ドアも閉めてくれ」
私が背を向けた瞬間、小日向ひよりの明るい声がした。
「久世先生、今日も一緒にお茶してくれますよね? 先週は五時間もアイロンビーズに付き合ってくれたし」
直人の声が、途端に優しくなる。
「もちろん」
その瞬間、ようやく分かった。
私に使う十分は無駄なのに、彼女に使う一日は惜しくない。
私を五年間閉じ込めていた暗い部屋は、うつ病なんかじゃなかった。
久世直人だった。