あらすじ
離婚届の隣に、結婚相談所から取り寄せた男たちのプロフィールが四通並んでいた。
秘書が置き間違えたのだと思い、どけようとした瞬間、相馬怜司がその上に手を置いた。
「先に見てみろ」
私は顔を上げた。
「どういう意味?」
怜司は一番上のプロフィールを開いた。
「三十二歳。大学病院勤務の外科医。初婚。条件も悪くない」
「気に入らなければ、あと三人いる」
私はしばらく彼の顔を見つめた。
「もしかして、私の再婚相手を探してるの?」
「そうだ」
怜司はためらいもせず答えると、すでに署名済みの離婚届の横へ万年筆を置いた。
「離婚したあとも生活は続く。候補は俺が一度確認してあるから、お前はこの中から選べばいい」
「気に入った相手がいたら秘書に伝えろ。そのあとはこっちで手配する」
言葉が出なかった。
八年間の結婚生活をいつ終わらせるか決めたのも彼だった。そして今度は、離婚したあと誰と人生を始めるかまで決めようとしている。
そのとき、ドアがノックされた。
「相馬社長、白石さんがお見えです」
秘書の言葉を聞いた怜司は、すぐに立ち上がった。
私は呼び止めず、八年間つけ続けてきた結婚指輪に目を落とした。細かな傷が増え、縁の光沢もすっかり薄れている。
昔、祖母に言われたことがある。
「誰かのために何でもしてあげているとね、その人はいつか、それが最初から自分のものだったと勘違いするようになるよ」
あの頃は、ただの年寄りの小言だと思っていた。
今なら、少しだけ意味が分かる。