あらすじ
約束の場所に現れたのは語り手ひとりだった。
千波は偽のてんしっちを手のひらに載せ、画面に夢中になっている。
その“パチモン”を見た瞬間、語り手は自分が抱えてきた嘘と重ね合わせ、胸の奥で小さく軋む音を聞く。
声をかけるまでの短い沈黙は、語り手の素性をもっとも正直に映し出す時間だった。
ようやく「もう一人は?」と声をかけると、里美が児童養護施設の実習を忘れて来られないと知る。
偶然の不在が、語り手と千波に思いがけない二人きりの時間をもたらす。
この静かな始まりが、語り手の嘘と向き合う夜の入口となり、
やがて「歩み始めねば」という小さな決意へとつながっていく。