あらすじ
「これは恋ではありません」
年に一度、防護ガラス越しに手のひらを合わせる。
それが、敵国の継嗣同士に許された唯一の接触だった。
ルール国が割れて、十二年。
「せねばならぬ」だけを課す義務の国ムストと、
「してはならぬ」だけを並べる禁止の国ネヴァ。
正しさの中身だけが違い、どちらも、従わない者を狩る。
禁止の国の継嗣ジュリエット、十六歳。
禁止リストを暗記して育った箱入り娘で、恋は小説の中でしか知らない。
その彼女が、平和調印式で初めて、義務の国の継嗣ロミオと向かい合う。
——彼女は知らない。
国がまだ一つだった最後の日に、二人が一度だけ会っていることを。
そして、覚えているのは彼だけだということを。
翌朝、彼の婚約が速報で流れる。
二人はいとこで、いとこ同士の結婚は法で禁じられている。
継嗣同士は、近づくことも、私的に言葉を交わすことも許されない。
背いた者を待っているのは、公開審判。
それでも二人は、花と木の暗号で言葉を交わしはじめる。
検閲に読まれても言い逃れできるよう、
偽の恋人という、いちばん危ない隠れ蓑をかぶって。
「これは恋じゃありません」
「禁じられたものに、名前などつけない」
——名前さえつけなければ、罪にはならない。
仮面をつけた祭りの夜、その嘘が、二人とも守れなくなる。
外から検閲される前に、自分で自分を検閲する。
それでも、消せなかった。
——そんな二人が、正しさが割れた国で、禁忌のはずの恋に落ちる「物語」。