あらすじ
人間と魔族の戦争は、もう昔の話。
現在の《魔王城攻略》は、勇者と魔王軍が安全装置付きの武器や罠で競い、その様子を世界中へLIVE配信する一大エンタメ事業になっていた。
人気魔王城ともなれば莫大な広告収入と投げ銭が飛び交い、所属する魔族も勇者も一躍スターとなる。
――ただし。
四十八ある公式魔王城の中で、ロイ・モーランが働く《第十三魔王城》は別だった。
月間配信ランキング、四十七位。
ほとんど勝てない。
視聴者も少ない。
スポンサーはゴブリン印の干し肉だけ。
そんな潰れかけの魔王城で働くロイは、三十二歳の人間族。
職業――清掃員。
戦闘経験なし。
罠の知識なし。
魔王軍への忠誠心も特になし。
「住み込み三食付きで、前職より給料が四割高かったので」
それだけの理由で魔王城へ就職した、どこにでもいそうな地味なおっさんだった。
そんなある日。
いつものように勇者攻略後の廊下を掃除していたロイは気づく。
「この罠、勇者に一回も当たってませんよね?」
床に残った足跡。
壁の傷。
魔法の焦げ跡。
飛び散った疑似血液。
毎日それらを掃除してきたロイには、勇者たちがどこを歩き、どこで止まり、どの罠を警戒したのかが手に取るように分かった。
そして何より――。
「この鉄球罠、床壊すし掃除大変なんで撤去しません?」
ただ掃除を楽にするため。
ロイが罠の配置を少し変えた次の配信。
第十三魔王城の同時視聴者数は、いつもの七倍に跳ね上がった。
『第十三どうした!?』
『今日めちゃくちゃ面白いぞ』
『今の罠誰が考えた!?』
『次も絶対見るわ』
さらに新規スポンサーまで現れて――。
これは、戦う才能など何一つない地味な清掃員ロイ・モーランが、
掃除を楽にしようと魔王城を改善しているだけなのに、
勇者を熱狂させ、
視聴者を熱狂させ、
魔王軍まで巻き込み、
万年最下位の弱小魔王城を世界一の人気コンテンツへ成り上がらせてしまう物語。
「ロイ! 次はどうすれば勝てる!?」
「知りませんよ。俺、清掃員なんで」
今日も世界一への作戦会議は、だいたいそんな感じで始まる。