あらすじ
中村虹助(なかむらこうすけ)は北海道の実家へ向かうバスで事故に遭った。
病院で目が覚めると、事故の影響で記憶喪失になっていた。自分の名前も、何者なのかも、親のことも友人のことも何一つ覚えていなく、そのため中村は療養という思いがけない形で故郷に戻ることになった。
知らない町、嗅ぎ慣れない家の香り、思い出せない両親との生活、友人であった他人から語られる昔話。中村にとっては全てが初めて観る映画のワンシーンのようで、周囲はそんな中村に対して懸命に記憶が戻るように手を尽くしてくれた。
中村はそんな人の優しさやありふれた日常に触れるほど、心が摩耗していくのだった。
今の自分を求める人間はいない。周囲が見ているのは過去の自分の姿だ。
そんな考えが中村を追い詰めていった。
ある日、中村は日々の重圧から逃避するように夜の散歩へ出かけた。自分のことを誰も知らない場所へ当てもなく歩き、ふらふらと彷徨っていると公園に辿り着いた。するとそこに、魔法少女のコスプレをした『輝子(きこ)』という名の少女が立っていた。街灯に照らされて、ハイカラな衣装と星型のステッキを握りしめ、そんな姿とは正反対な冷たく鋭い瞳を持った綺麗な少女だった。
中村がどうしてそんな格好をしているのかと尋ねると、輝子は力強く言った。
「敵と戦うためよ」
輝子にとっての敵とは一体何なのか、中村は分からないながらも、彼女が放つ苛烈な熱に煽られるようにどこか惹かれていった。
北国を舞台に、夜の公園で記憶を失った男とコスプレをした少女が街灯に照らされる。
中村の記憶、輝子がコスプレをする理由、二人の過去、互いに傷を抱えながら、人間にとっての救いとは何かを探す。
田舎町で、極彩色の煌めきを放つ魔法少女の衣装が夜風にたなびく時、少女は泣いていた。
少女の上に、誰が傘を差すのだろうか。