あらすじ
あらすじ
大正の帝都。六条子爵家の一人娘・六条千鶴は、十六歳になった今も、幼い日に命を救ってくれた「桜の兄さん」を忘れられずにいた。
少年の名前も顔も覚えていない。ただ、自分を受け止めて傷ついた右腕と、右肩近くにあった桜の花のような痕だけが、今も千鶴の心に残っている。
そんな千鶴には、一度も正式に顔を合わせたことのない許婚がいた。一条家の三男・一条渉。十二歳から米国のボストンへ留学している彼は、千鶴にとって名前しか知らない遠い存在だった。
ある春の朝、祖父母の手配した人力車で女学校へ通うことになった千鶴は、朔と名乗る若い車夫と出会う。
長い髪を後ろで束ね、古傷のため右腕をかばう朔は、車夫とは思えないほど礼儀正しく、英語や西洋の知識にも通じていた。しかし、彼は自分の名前も過去も、なぜそのような知識を持っているのかさえ覚えていない。
実は朔こそ、数か月前に帰国し、船の中で頭を打って記憶を失った一条渉だった。
一条家は行方不明になった渉を懸命に捜していたが、十二歳で渡米して以来、現在の姿が分かる写真を一度も送ってこなかったため、捜索は難航していた。
互いの正体を知らないまま、朝夕の送り迎えを重ねる千鶴と朔。二人の心が静かに近づいていく一方、千鶴には許婚との結婚が迫っていた。
忘れられない「桜の兄さん」。
心惹かれる名もなき車夫。
そして、まだ見ぬ許婚。
三人に見えたその人々が、ただ一人の青年へと結びつくとき、失われた記憶と十三年前の出会いが、再び二人の運命を動かし始める。
全二十話で描く、大正浪漫の恋物語。