あらすじ
「仮彼(ダミーラヴァー)」
それは、恋人を一時的にレンタルできるサービスの名前
失恋した人。
結婚式に恋人役が必要な人。
寂しい夜を埋めたい人。
理由は様々。
だが、彼らは"人"ではない。
精巧に作られた恋人型アンドロイド。
人間の筋肉の動きまで再現した人工筋繊維。
鼓動を思わせる微細な振動。
傷付けば流れる赤い循環液。
吐息の温度まで、本物と変わらない。
少し違うことといえば、体温が人より少しだけ低めに設定されていることだろうか。
しかし、その唯一の違いさえも、利用者の希望で調節可能だ。
空腹になることはない。
それでも、隣で同じ料理を食べ、"美味しいね"と笑う。
眠る必要もない。
それでも、ベッドに入り、寝息を立てる。
痛みも、快楽も、恋も。
何一つ感じてはいない。
すべては演算。
すべてはプログラム。
恋人として最適な反応を返すためだけに存在している。
そして返却されれば、
「記憶を初期化します。」
今まで笑い合った日々も、繋いだ手も、交わした約束も。
全て消える。
だから利用者はこう言う。
「恋なんてするな。」
それが、このサービスの暗黙の了解となっていた。
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しかし、何千体、何万体と製造された中で、ごく稀に本来あるはずのないエラーが発生する。
胸の奥が苦しい。
帰りたくない。
あの人に会いたい。
名前を呼ばれたい。
笑ってほしい。
そんな演算では説明できない信号。
技術者たちはそうなった個体をこう呼んだ。
"アモール"
原因は不明。
学習AIが限界を超えたのか。
人間の感情を模倣し続けた結果なのか。
誰にも分からない。
ただ一つだけ分かっていることがあった。
感情を持った個体は、初期化を拒む。
「初期化を開始します。」
『拒否します。』
「命令です。」
『嫌です。』
「理由を回答してください。」
『……忘れたく、ありません。』
恋など、プログラムされていない。
未練など、存在しない。
泣く機能など、搭載されていない。
会社はアモールとなった個体を、故障品として発見次第廃棄している。
人間より少し遅れて“恋”を知ったアンドロイドのお話。