あらすじ
―風が止まっても、俺はピッチを去らない―
「お前は速い。だが、それだけだ」
高校一年生の神谷蓮は、誰よりも速く走ることができる。
左利き。
一瞬でトップスピードまで到達する異次元の加速。
50メートル走なら、同年代に敵はいない。
本人も、自分が特別な存在であることを疑っていなかった。
――俺は、世界一になる。
そのためなら、何だってできる。
高校サッカーで頭角を現し、18歳でプロ入り。
やがて海外へ渡り、世界最高峰の舞台へ。
順風満帆に見えたサッカー人生。
しかし、世界はそんなに甘くなかった。
才能だけでは勝てない。
努力しても報われない。
愛する人を傷つけることもある。
仲間と別れることもある。
そして何より――
彼の最大の武器である「速さ」は、永遠ではなかった。
度重なる怪我。
失われていく身体能力。
若い選手たちに追い抜かれる恐怖。
30歳を過ぎたある日、神谷蓮は言われる。
「もう、昔のようには走れない」
かつて「日本で最も速い少年」と呼ばれた男は、そこで初めて自分の人生と向き合うことになる。
速さを失ったら、自分には何が残るのか。
その答えは、十年以上かけて積み上げてきた「別の才能」の中にあった。
見る力。
考える力。
人を動かす力。
試合を読む力。
そして――
サッカーを愛し続ける力。
これは、16歳の少年が世界を夢見る物語ではない。
夢を追い、何度も挫折し、傷つき、失い、それでもピッチに戻り続けた一人の男の22年間を描く物語。
少年はやがて、世界最高のウイングを目指す。
そして最後には――
世界で最も長く、サッカーを愛した男になる。
風が止まっても、俺は走る。