あらすじ
定年退職の日、山田信昌は仕事と妻を同時に失った。
中堅印刷会社、総務課長。勤続三十八年。万年課長。
退職金二千百万円、年金月額十九万円、人間ドックは全項目異常なし。
医師は言った。「あと二十年は生きるでしょう」
二十年は、七千三百日である。
残された時間の使い道として、信昌はひとつの結論に達する。
――若い頃にできなかったことを、今こそやろう。
しかし彼は、遊び方を知らなかった。
初めての風俗店。比較検討に二晩、評価項目は十七。
初めてのパパ活。名刺と、可処分所得の説明資料を持参。
相手が増えれば、候補者名簿と抽選制度。
トラブルが起きれば、合意書のひな形。
美人局に遭えば、相手の損益分岐点を計算し始める。
堕落しようとすればするほど、彼はどんどん出社していく。
その頃、派遣社員の娘は、月収十八万円と奨学金三百万円を抱えて生きていた。
彼女が父に言い放った一言が、この男の何もかもを崩していく。
「お父さんも、同じことしてるんじゃないの?」
これは、六十五歳の男が、
自分が本当に買おうとしていたものに気づくまでの話である。