あらすじ
シャワル・ミレイス、七十四歳。
彼は、壊れゆく魔術が“最後の一線”を越えることだけを、ほんのわずかに抑えることのできる老魔術師だった。
崩壊する設備を直すことはできない。
傷ついた人を治すこともできない。
死んだ者を生き返らせることもできない。
彼にできるのは、ただ少しだけ終わりを待たせること。
その数十秒のあいだに、誰かが人を救い、誰かが傷を治し、誰かが壊れたものを直していく。
そんなシャワルには、生涯ただ一つだけ、最後まで受け取らないと決めているものがあった。
幼い頃から何度も読み返してきた十二巻の物語。
『風見鶏の街道』。
擦り切れるほど読んだ第一巻から第十一巻。
そして、一度も開かず金庫へしまったままの最終巻。
作者が物語を終えたことは知っている。
結末を否定しているわけでもない。
それでも。
「一つくらい、最後を知らないまま持っていくものがあっていいだろ」
これは、数え切れない“最後”を少しだけ待たせ、人々へ明日を渡し続けた一人の魔術師が、自分自身の最後へ辿り着くまでの物語。