あらすじ
大正十年、東京・新橋。
弱小夕刊紙『東都夕報』の探訪記者・浦上文治は、埋められようとしている実家の古井戸を前に、少年時代に迷い込んだ異世界のことを思い出す。
井戸の先に広がるのは、六つの邦と六つの種族が暮らす六邦連合。その北境市では、楕円の球を奪い合い、敵陣の最奥へ運ぶ九人制競技「陣球」が人々を熱狂させていた。
文治が目を奪われたのは、異なる種族の選手が集まった弱小チーム・北境倶楽部だった。しかし彼らの試合は、偏見や疑惑、制度の都合によって、記録から消されようとしていた。
文治は選手にはならない。戦術を教えることもしない。彼にできるのは、見たものを聞き、書き、新聞として人々へ届けることだけだ。
異世界の編集者ティナとともに独立紙『井戸端新聞』を作り、日本では『井底通信』を連載する文治。だが記事は選手たちを救う一方で、敵に弱点を知らせ、偏見を広げ、ときには誰かを傷つけてしまう。
少年時代に出会った鳥人ラウは、いまや競技の記録を扱う側にいる。消すよう命じられた記録を前に、彼は何を残すのか。
勝利だけが、歴史ではない。
これは、存在しなかったことにされる人々の試合を、一人の新聞記者が紙面に刻む物語。