あらすじ
現世の私は、箱入り娘だった。柊木澄玲、十九歳。屋敷の外へ出ることを許されず、欲しいものはすべて箱に入れて運ばれてきた。初めて自分の意思で門を出た日、私は赤い信号の向こうへ消えた。
次に目を覚ますと、私は異世界の封函侯爵家に生まれた少女、ルチア・ヴェルクレアになっていた。
この世界では、火災も洪水も竜の咆哮も、箱へ封じて暮らしている。ただし、箱に閉じ込められた災厄には、もう誰も開け方を書いていない。
母の形見である空の箱に触れた瞬間、私だけに新しい術が目覚めた。
中身。守るもの。開ける条件。
三つを決めれば、どんな災厄も封じられる。けれど、生きた人の意思だけは箱にできない。
「閉じ込めるのは、守ることではありません。開ける人がいる場所まで、災厄を運ぶだけです」
外を知らなかった箱入り娘は、竜も呪いも時間の凍結も箱詰めにして、閉じた世界の蓋を開けていく。