あらすじ

「あの男を黙らせろ」 陛下がそう仰った。だからわたくしは〈北の関所の通行料を、来季まで据え置く〉と書いた。 王付き文書官イーディト・ウェルズ、三十九歳。仕事は〈言い直し〉だ。陛下が口になさった言葉を、そのまま書かない。受け取る家ごとに読み癖があるからだ。北の関所は命令形を期限の宣告と読み、大神殿は、たとえを誓いと読む。 二十年、この国は戦をしなかった。 先の王が身罷り、若い陛下が立った。新しい側近は言った。 「陛下の御言葉に手を入れるとは、不敬である。今日より一言一句、そのまま記せ」 「――承知いたしました。一言一句、そのまま記します」 そのように引き継ぎ、規定どおりに辞職した。三日後、隣国の使節が帰国した。五日後、北の関所が閉じた。八日後、南の港が荷役を止めた。 その文を十三年読んできた隣国の書記官だけが、生のまま届いた一通を見て言った。 「これは、あの方の手ではない」 裏通りで代書屋を始めたわたくしのもとへ、その日から人が来る。一通だけ直してくれ、と。 「文は書きません。一語だけ、直します。あとは、あなたの言葉です」

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小説を読もう2026/08/28
  • 現在の作品「陛下の御言葉を、勝手にやわらげるな」と叱られましたので、本日より一言一句そのまま記します ~二十年、王の言葉を適切に直してきた文書官が手を止めた日から、王国は自分の言葉で焼け始めました~