あらすじ
東京・丸の内。編集者として慌ただしい日々を送る小鳥遊瑠夏は、雨にけむる街角で神崎朔とすれ違う。名前よりも先に心に響いた静かな気配は、まるで季節が置いていった余韻のように消えずに残り、その後も思いがけない再会を重ねるたびに互いの日常にゆっくりと溶け込んでいく。
仕事に向き合う時間は変わらないが、同じ街を歩き、同じ空を見上げ、言葉にならない沈黙を分かち合うひとときが、見慣れた景色を少しずつ異なる色に染め替えていく。急がなくても失われない距離があり、触れなくても伝わる思いがあることを、瑠夏は朔と過ごす穏やかな時間の中で知っていく。
降り続く雨は、別れを告げる音ではなくまだ名付けられていない未来へ続く響きだった。幾度もの偶然がやがて互いの歩幅を静かに重ね合わせ、誰にも見えない約束へと姿を変えていく。雨音の向こうで育まれた想いはこれから訪れる新しい季節にそっと寄り添い、見慣れた毎日を、かけがえのない物語へと変えていく。