あらすじ
~登場人物の紹介とあらすじ~
i)登場人物の紹介
◆真優(まゆ)/二十一歳
香市小路の薫物店「継香舗」で働く香薬師。
古い衣や香炉の灰にわずかに残った香りから材料や調合を読み取り、失われかけた薫物を蘇らせる「継ぎ香」の使い手。
身分は低いが、自分の仕事には誇りを持ち、皇族相手でも危険なものは危険と言い切る。
一方、自分の技能には値段を付けられても、「自分自身が愛される価値」にはなかなか自信を持てない。
◆春亮親王(はるあきらしんのう)/二十七歳
帝の異母弟。
幼少期に母妃を香蔵の火災で亡くし、自身も煙を吸った後遺症から強い薫物を苦手としている。
冷淡な皇族と思われているが、実際は職人や領民の働きを尊重する実直な人物。
恋愛には極端に不慣れで、真優へ好意を伝えようとするたび、どこかずれた求愛行動を繰り返す。
◆采奈(あやな)/二十二歳
真優の幼なじみ。
世話好きで明るく、宮中でも物怖じしない現実派。
真優より先に春亮の恋心を見抜き、親王の奇妙な贈り物を次々と「求愛行動」と認定する。
◆澄(すみ)/二十四歳
左大臣家の娘で、春亮の妃候補と噂される高貴な姫君。
恋敵と思われる立場だが、真優の技能を正当に評価する理解者。
家柄より本人の意志を尊重し、やがて真優と共に宮中の仕組みを変えていく。
◆岬(みさき)/三十歳
春亮の側近。
慎重で有能だが、恋愛だけは壊滅的に不器用な主君に振り回される苦労人。
当初は真優を警戒するものの、その仕事ぶりを認めて強力な味方となる。
◆香乃(こうの)/四十九歳
真優を育てた叔母であり、香薬師としての師匠。
「新しい香りで塗り潰すのではなく、残っているものへ継ぎ足す」という教えを真優へ伝えた人物。
◆竜郎(たつろう)/五十八歳
かつて幼い春亮を火災から救った元禁衛。
その際の負傷で左脚が不自由になり、現在は月影池を管理している。
十八年前の火災について、誰にも語れなかった記憶を抱えている。
ii)あらすじ
香市小路の小さな薫物店で働く真優には、一つだけ誰にも負けない技能があった。
古い衣や香炉の灰にわずかに残った香りから、使われた材料や調合を読み取り、失われかけた薫物を蘇らせる――「継ぎ香」。
ある日、真優は茶屋で強い香に苦しむ旅装の青年を助ける。
ところが翌朝、彼女の店へ宮中から使者が現れた。
昨日の青年の正体は、帝の異母弟・春亮親王だった。
処罰を覚悟して御所へ向かった真優だったが、春亮が望んだのは謝罪でも服従でもない。
「私のために、香を作ってほしい」
幼い頃の火災が原因で強い薫物を受けつけない春亮と、香りを押しつけず、その人に必要なものだけを残そうとする真優。
身分も暮らしもまるで違う二人は、香を通じて少しずつ互いを知っていく。
やがて真優は、十八年前に亡くなった春亮の母妃が愛した幻の薫物「常春香」の復元を任される。
残された衣。
不可解な帳簿。
池の底に隠されていた銀の香毬。
そして、宮中へ納められている偽物の沈香。
一つの香りを継ぐたび、十八年前の火災に隠された「失われた真実」が浮かび上がっていく。
その一方で、春亮の真優への思いも日に日に深まっていた。
しかし、皇族である春亮と市井の香薬師である真優の間には、簡単には越えられない身分の壁がある。
春亮の妃になるために、真優は仕事を捨てなければならないのか。
それとも二人は、それぞれの立場と生き方を守ったまま、共に歩く道を作れるのか。
これは、消えかけた香りを「継ぎ足す」一人の職人が、
皇族の青年の過去と心を蘇らせ、
やがて二人で新しい未来の香りを作っていく物語。