あらすじ
山奥に残された旧御岳トンネル監視詰所。廃止予定のアナログ回線は、満月が天頂へ達する数十分だけ息を吹き返す。月重力による地盤の微かな歪みが、山中で切れかけた銅線を接触させるためだ。
夜間監視員ミヤジは、旧式配電盤に一本のヘアピンを仕込み、回線の先に残るウツミの自動応答音声を聞き続けていた。しかし今夜、本庁監査員トガシが抜き打ち設備監査に現れる。真空管の熱、受話器から漏れるテープノイズ、導通を測る回路テスター。異常が発覚すれば、詰所はただちに封鎖される。
監査を通すには、ウツミの声をつなぐヘアピンを、トガシの目の前で抜かなければならない。次の満月より先に撤去される詰所で、ミヤジは最後の数ミリへ指をかける。