あらすじ
花屋の開店準備のため、私は恋人の桐生悠真と親友の白石美羽と一緒に什器を選びに出かけた。その途中、美羽の指に木のささくれが刺さり、ほんの少し血がにじんだだけなのに、悠真は顔色を変えて彼女の手を取った。
「杏奈、絆創膏を買ってきてくれない? 美羽、痛いの苦手だから」
私は近くのドラッグストアまで走り、ようやく絆創膏を買って戻った。ところが外はすでに土砂降りで、悠真と美羽の姿はどこにもなかった。
すぐにスマートフォンが震えた。
「雨もひどいし、美羽の指も念のため診てもらったほうがいいから、先にクリニックへ行く。杏奈はタクシーで帰ってきて」
びしょ濡れのまま三時間以上待ち、ようやくタクシーを捕まえて店へ戻った。
ドアを開けると、悠真はドライヤーを手に、美羽の濡れた髪を乾かしていた。二人は寄り添うように並び、店にどんな薔薇を置くか楽しそうに話している。
ずぶ濡れの私を見ても、悠真は眉をひそめただけだった。
「鍋に牛乳があるから、自分で温めて飲めば?」
とっくに冷めきった牛乳を見つめた瞬間、何もかもがどうでもよくなった。
私はスマートフォンを取り出し、長い間こちらから連絡することのなかった父へメッセージを送った。
「お父さん、決めた」
「戻る。東雲ホールディングスの話、受けるよ」