あらすじ

楠木ユウキ、二十四歳。F級探索者。日収四百五十円。 ダンジョン第二層で薬草を摘みながら、二年間ずっと配信を続けている。登録者は十二人。うち一人は母親である。 誰も見ていないから、彼は喋り続けた。 「石の目」「三層呼吸」「片流れ」——それっぽい専門用語を、その場の思いつきででっち上げて。 ある日、彼は見たことのない壁を見つける。 表面に、細い線が七十二本。 配信の翌日、線は七十三本になっていた。 そして七十四本目に刻まれていたのは、彼が三日前にでっち上げた造語――「片流れ」だった。 千年以上、誰にも読まれないまま黙っていたもの。 それが、日本語を覚えはじめた。 教科書は、F級配信者の口から出まかせだけ。 集まった世界中の言語学者は、一行も読めない。 読めるのは、その嘘をついた本人だけだった。 戦えない。強くない。最後まで四百五十円のままだ。 彼が持っているのは、二年間喋り続けた言葉だけ。 これは、嘘つきが世界で最初の翻訳者になる話であり、 千年ぶりに誰かと喋れた「何か」の話でもある。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/08/27
  • 現在の作品登録者12人。でっち上げた探索用語で配信してたら、千年黙っていた壁が返事をしてきた