あらすじ
「大丈夫だ、泣くな。もう、誰にも捨てられはせぬ。我がおる」
すべては、あの激しい雨の夜から始まった。
夜の帳が深く降りた山中を歩む、孤高の武神――「九段の九尾」。
冷徹な銀色の瞳と、圧倒的な力で夜を統べるその男が、ある嵐の夜、岩陰で息絶え絶えに震えていた名もなき捨て子の少女を拾い上げる。
雨の中で見上げた美しい月にちなんで「みう」と名付けられた少女は、神の住まう静かな屋敷で、彼にだけ見守られながら、大切に、甘やかに育てられることとなった。
やがて美しく、しなやかに成長したみう。
誰の前でも傲然と佇む神が、みうにだけは見せる、不器用で、しかし底なしに優しい素顔。
九本の温かな尻尾に包まれるようにして、二人は自然と、身も心も深く結ばれていく。
「今宵より、お前は我のものだ。それで、よいな」
「はい……。私、九段様のものです」
穏やかで、この上なく幸せな、縁側での甘い日常。
だが、そんな二人を嘲笑うかのように、理不尽な世界の無情が、二人の平穏を冷酷に切り裂いていく。
最愛の者を失うという、極限の絶望。
神が己のすべてを懸けて彼女の魂に刻み込んだ、再会を約束する【銀の糸】のまじない。
「死んでも、死んでも、必ずお前を探し出す」
理性の鎖をすべて解き放ち、ただ歩くだけで国を滅ぼし都を灰にする「傾国の九尾」として世界へ牙を剥いた神の歴史――。