あらすじ
「お前のような『価値のない結界術士』は不要だ」――落日に染まる王宮で、王太子から婚約破棄を言い渡された結界術士アデライド。しかし彼女には前世の記憶があった。日本の救急救命病棟で夜勤に追われ、過労死した看護師・浅野明日香として。
衆人環視の修羅場など、点滴の滴下速度を間違えた新人を叱るより気楽なもの。「では、辞めさせていただきます」――一礼し、辞表提出完了。彼女は迷いなく王宮を去る。
「エルデンの国境結界、今夜からはどなたか別の方が維持なさってくださいね。……できるものなら」
誰も知らなかった。夜通し結界を維持し魔物を退けていたのが、彼女ただ一人だったことを。それが王国の終わりの始まりだと――。
忠実な従者コルトを連れ、アデライドが向かうのは王国が見捨てた辺境の結界都市エルデン。落日にのみ現れる『開かずの扉』の伝説の地。そこで彼女を待っていたのは、数百年の孤独に朽ちかけた、瀕死の古竜だった。
呼吸数、体温、鱗の色――前世で培ったトリアージの思考で、彼女は竜の傍らに膝をつく。
「守る価値のない場所に、術式は注がない。守る価値のある場所ができたなら、守るまで。それだけよ」
更地からの新規開業。瀕死の竜の再生、そして朽ちた結界都市の再建が、今始まる。目覚める古竜たち、忍び寄る隣国の影――次々と現れる「重症患者」に、元救急ナースの腕が鳴る。
痛快な追放ざまぁと、頼れるヒロインの再建譚。物語は、まだ、始まったばかり。