あらすじ
七種族の名を知らぬ者はいない。だが、会ったことのある者は百人に一人もいない。
千年の闘争の昔、七柱の神々が人から引き上げ、おのが欠片を分け与えたと神書に記される七つの民。声を張れば言葉が落雷になるゆえ、囁きでしか話さぬ雷冠の民。知ったことが文字となって肌に浮かび、学ぶほどに黒く染まっていく銘肌の民。歩いた跡に花が咲き、なにものの命も奪えぬ芽吹の民。嘘をつけば立つことすらできなくなる天秤の民。ひとつの返事に半日をかける、岩となりゆく黙坐の民。老人の姿で生まれ、若返りながら水に還る逆刻の民。影の代わりに小さな扉を足元に落とす黄昏の民。
名は童歌にまで歌われながら、その素顔は誰も知らない。書き手は、七種族との橋渡しを担って百五十年になる吹き流れる知恵の収集旅団の、入団五年目の記録係ユーリ・ロ・ヴェンデル。旅団長いわく、古株は彼らに慣れすぎた、初めて会った驚きが冷めぬうちに書け。かくて若き記録係は、使節に同行した五年の旅をたどり、七つの隣人を一人ずつ訪ねていく。
そしてもう一つ。七つのとき、川辺で出会った逆刻の老人は、なぜ初対面の私を見て泣いたのか。その答えは、逆刻の民の章で。