あらすじ
――おっ、今日もいるな。
夜の住宅街。仕事を終えて家路についていた男は自然と頬を緩めた。
視線の先にあるのは古びた一軒家。庭はまったく手入れされていないらしく、雑草が競うように背を伸ばし、土が見えないほど密生している。低いコンクリートブロックの塀には縦格子の柵が取り付けられており、ところどころ赤サビが浮いていた。
その柵の隙間から、一匹の犬がひょっこりと顔を覗かせていた。
舌を出し、見るからに人懐っこそうな顔。近くの街灯の光に照らされ、その瞳だけが暗い住宅街の中できらきらと光っていた。
男はある晩、この犬の存在に気づいて以来、この道を通るのを密かな楽しみにしていた。本当は他に自宅に近い道があるのだが、たかが数分程度の短縮にすぎない。それに、あの犬の姿を見ると仕事で疲れ切っていた心と体がふっと緩むのだ。