あらすじ
【あらすじ】※ネタバレ含む
「島には黒い翼の怪物がいる」――そう恐れられる青年・魔ちゅらに、詩を書く二十歳の澪は中学三年の嵐の夜に命と詩集帳を救われた。
以来、誰より厳しくも真剣に自分の言葉を読んでくれる彼のもとへ通い続けている。
月祭りを前に島の禁足地で観光開発が始まると、封じられていた「黒い傷」が流出し、島に熱病が広がる。
傷を翼に引き受ける魔ちゅらの正体は、人間の言葉を美しいと思った罪で天界を追われ、真名と記憶を奪われた天使・真白だった。
執行者・白耀は、天へ戻るには地上で得た記憶――澪のことも――すべて捨てねばならないと告げる。
満月の夜、島を救うため黒に呑まれようとする彼へ、澪は月祭りで書いた詩を届け、奪われた名を呼ぶ。
その声は島の人々が抱いてきた「怪物」という見方にも、小さな変化を生む。
澪の声と、「忘れない、消えない」と自ら選んだ真白の意志によって罰の器は砕け、翼は白へ還る。
自分の言葉で一人の存在と島の記憶を書き換えた澪は、恋人となった真白と新しい朝を迎える。
【登場人物紹介】
■澪
南の島に祖母と暮らす二十歳の女性。幼い頃から詩を書くことが好きだが、自分の言葉を人に見せることには臆病。中学三年生の嵐の夜、島で怪物と恐れられる魔ちゅらに命と詩集帳を救われ、それ以来、彼のもとへ通い続けている。人に合わせて笑う癖がある一方、大切なものについては最後まで譲らない芯を持つ。物語を通して「選ばれるための言葉」ではなく、「誰かへ届く自分自身の言葉」を選び取っていく。
■魔ちゅら/真白
島の外れの洞窟で暮らし、「黒い翼の怪物」と恐れられる青年。無愛想で自己犠牲的だが、澪の詩には誰より厳しく誠実。島では災いを呼ぶ怪物と恐れられているが、実際には人知れず嵐や災いから島を守り続けている。正体は、人間の言葉を美しいと思ったため天界を追放された天使・真白。名と記憶を封じられ、自罰のため「魔ちゅら」と名乗っていた。澪との日々を捨てて救われることを拒み、自ら地上を帰る場所として選ぶ。
■白耀
白金の髪と純白の翼を持つ天使。真白のかつての友であり、天の掟に従って彼の名を封じ、翼を黒く染め、地上へ落とした張本人でもある。感情より記録と秩序を重んじる冷静な存在だが、真白と澪を見届けるうち、自らが従ってきた「正しさ」に迷い始める。二人の選択を記録することで、最後には天の定めにも存在しなかった新しい結末を認める。
■夏帆
澪の幼なじみ。港近くの土産物屋兼食堂を手伝う、現実的で行動力のある女性。島の生活のため当初は観光開発にも肯定的だが、異変の際には真っ先に水を配り、人々を動かす。詩や超常現象を完全には理解できなくても澪を信じ、「最後まで読んで」と背中を押す、現実世界側の最大の理解者。
■澪の祖母
島の古い言葉や祈り歌、禁足地の言い伝えを知る祖母。澪の秘密を問い詰めることなく、必要な時だけ言葉を渡して進む方向を示す。「名前は帰ってくるためにある」という教えは、真白を救う物語の根幹となる。