あらすじ
父が死ぬ三日前、僕は奇妙な言葉を聞いた。
「月を盗む方法を知ってる?」
病室の窓から見えるのは、いつもの月。
けれど父は、それを盗む方法があると言った。
「簡単だよ。誰にも見せなきゃいい」
その夜、僕は屋上から月を撮影した。
そして翌朝、空から月が消えた。
写真の中にだけ残った月。
誰にも見せることのできない、僕だけの月。
それから十年。
僕は毎晩、月の写真を撮り続けている。
満月も、三日月も、赤い月も。
誰にも見せず、誰にも触れさせず。
なぜなら、父との約束があるから。
けれどある夜、娘が窓を開ける。
「パパ。今日、お月さまないね」
その言葉を聞いた瞬間、僕は気づく。
父が僕に残したもの。
僕が十年間守り続けてきたもの。
そして、本当に「盗まれていた」ものの正体に。
これは、月を盗んだ男と、
その月を返すことになる少年の、
十年越しの小さな物語。