あらすじ

十二年間、彼女の名前がポスターに載ることはなかった。

王立劇場で働く二十九歳のリヴィアは、誰かが倒れたときだけ舞台に立つ「名無しの代役」。

彼女の役紋は、何も刻まれていない外れの【空白】だった。

どんな役にも一晩だけ合わせられるため、劇場からは便利に使われてきた。けれど、どれほど完璧に演じても、拍手も名声も看板女優のもの。リヴィアへ向けられる感謝はない。

王国中の貴族が集まる記念公演を救った夜、支配人は言った。

「代役に名前はいらない。お前の代わりもいる」

その瞬間、リヴィアは十二年間勤めた王立劇場を辞めることにした。

劇場の外で彼女を待っていたのは、人前に立つとうまく声を出せない脚本家ノア。

「今度は、あなたの名前を台本に書かせてください」

彼が率いる旅一座〈青い天幕〉に残されていたのは、穴の開いた天幕、古びた舞台馬車、たった三脚の客席だけだった。

しかも、巡業札の期限まで残り九十日。

一座を存続させるには、七つの町で客席を満員にしなければならない。

耳の聞こえない影絵師の少女。

美しい声を持ちながら、自分の役を見つけられない元歌姫。

英雄と呼ばれることを嫌う、片脚の元工兵。

リヴィアたちは旅先で出会った訳ありの仲間を迎え、それぞれが無理なく輝ける舞台を一つずつ作っていく。

石切り町では、英雄ではなく帰りを待った家族の物語を。

声を出せない風の町では、言葉を使わない影絵芝居を。

戦勝に沸く町では、鎧を脱いだ兵士たちが心から笑える喜劇を。

やがて明らかになる【空白】の本当の力。

それは、誰かの役を借りるだけの力ではなかった。

仲間と観客の心が重なったとき、この世界にまだ存在しない「新しい役」を生み出せる、特別な役紋だったのだ。

一方、リヴィアを失った王立劇場では、代役不足や若手の離職が重なり、公演が少しずつ立ち行かなくなっていく。

今さら名前を看板に載せるから戻ってほしいと言われても、もう遅い。

リヴィアが立ちたい舞台も、帰りたい場所も、共に歩きたい人も――すでに自分で見つけている。

これは、誰かの代わりにしかなれなかった女性が、訳ありの仲間たちと七つの町を巡り、自分の名前で拍手を受けるまでの物語。

温かなお仕事と仲間づくり、そして舞台に立つ女優と舞台に立てない脚本家の、ゆっくり育つ恋のお話です。

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アルファポリス
アルファポリス2026/08/22
  • 現在の作品王立劇場を辞めた名無しの代役、外れ役紋【空白】で訳あり役者の旅一座を始めます~七つの町で今日も満員御礼です~