あらすじ
東関大学教授、西隆一郎、45歳。
人間福祉とソーシャルワークを専門とする彼は、複雑な議論や曖昧な問題を整理し、誰もが理解できる言葉に変えることを得意としている。
会議の異論も、現場の声も、研究上の対立も。
説明できる形にすれば、前へ進められる。西はそう考えていた。
私生活でも同じだった。
四年間、恋人とも同居人とも呼ばずに身体を重ねてきた大学准教授。
助言を求める相談支援専門員。
彼の言葉を本にしようとする編集者。
博物館の学芸員、大学職員、新聞記者、そして十三年前の共同研究者。
女性たちとの距離が近づくほど、西は相手の望みを「分かっている」と思う。
けれど、人の言葉を分かりやすく整えることと、その言葉を自分のものにすることの境界はどこにあるのか。
誰が数字を数えたのか。
誰の経験を、誰の成果として語るのか。
選択肢を示す側は、本当に公正なのか。
そして、同意して触れ合う二人の間にも、評価する者とされる者、教える者と教わる者、雇う者と雇われる者という力の差は残る。
人の言葉も、欲望も、理解できると思っていた教授の一年。
大学、社会福祉、研究、仕事、そして大人の親密さが交差する現代人間ドラマ。