あらすじ
没落令嬢エレオノーラが嫁がされたのは、「敗戦処理屋」「灰色の死神」と蔑まれる提督だった。
全戦全敗、社交界の笑い者。けれど彼の執務日誌には、敗北の記録と並んで別の数字が並んでいた。
——生還率、九十八パーセント。
この人は負けていない。負けたことに、されているだけだ。
神聖アウレリア帝国とレムリア自由星系同盟の戦争は、二百年を越えて続いていた。
終わらないのは、終わらせたくない者がいるからだ。
両軍に武器を売り、戦費を貸し、戦線を管理して利益を得る超国家資本——星環深淵機構(アンカー・カルテル)。
レナード・フォン・クロイツ少将、二十九歳。
味方が壊走したあとの戦場に送り込まれ、負け戦の後始末だけを命じられ続けた男。
彼は一度も勝利を記録されず、そのかわりに一人も部下を死なせなかった。
極度の口下手ゆえに、彼はそれを誰にも説明しない。説明しないから、記録は書き換えられる。
エレオノーラ・フォン・アルテンブルク、二十歳。
名宰相と讃えられた祖父が失脚し、没落した家の娘。
家に遺されたのは膨大な帳簿と、複式簿記・情報監査・暗号解読の技術だけだった。
——だからこの妻は、夫の戦場に立てる。
夫の戦場は宇宙。妻の戦場は宮廷と議会と帳簿。
補給を握り潰す門閥貴族を数字で丸裸にし、軍需の水増しを一枚の伝票から崩し、
揉み消された戦功を公文書に刻み直す。
夫が守った命の数を、妻が誰にも否定できない形に変えていく。
やがて二人の前に、二百年の戦争そのものを設計した者たちが姿を現す。
帝国宰相ラインダール公爵。カルテル執行理事ギリアム・クロウ。
そして、宇宙でただ一人レナードと互角に渡り合う男——同盟軍中将アレクシス・ヴァレンシュタイン。
これは、正しく評価されなかった男が正しく評価されるまでの記録であり、
数字に恋をした女が、その数字を銀河に証明させるまでの物語である。
※三人称一元視点/全10部完結済/すれ違いによる不和はありません。